秋の澄んだ日差しを浴びながら、修兵は紅葉の木にもたれかかっていた。
少し離れたところで平隊員たちが何やら話をしている。
その中の、一際目を惹く女死神を見つめながら、ぼんやりとしていた。
彼女がその視線に気づき、振り向いた。
目が合うときょとんとしたような顔をして、にっこり微笑んだ。
そのまま修兵の許に駆けてきた。

「どうされたんですか、こんなところで?」

「んー?ボーっとしてるだけ。」

翅音の艶やかな髪がさらりと流れ落ちた。
修兵はドキッとする。
しかし平静を装いながら答えた。
優しい香りが鼻をくすぐる。
どうやら 翅音からのようだ。

「お前こそいいのか?
 他の奴等、まだ話してるじゃねーか?」

行って欲しくはないが、動揺を隠そうと修兵は言った。
そのまま言ってしまうかと思われた 翅音だったが、ちらりと目をやっただけで、修兵に微笑みかけた。

「ただの世間話ですから。
 気にしないでください。」

翅音の微笑みに、目を逸らすことすらかなわない。
自分の心を気取られはしないだろうか。
そんな考えが頭をよぎる。
しかし同時に、 翅音も自分の傍にいたいのではないかという期待も浮かんだ。
暗に行けと言ったのに、それでも行かずにここにいる。
それは、自分の傍にいることを選んだと受け取っても、いいのだろうか?
翅音の笑顔からは、真相は読めない。

「暑くないし、寒くもないし、気持ちいいですよね。
 ぼんやりしたくなるのも分かります。」

修兵の隣に腰を下ろし、 翅音は空を見上げた。
目に映る紅葉は、まだ全部が染まりきってはいない。

「ホント、何か…幸せ感じますよねー。」

心から嬉しそうな 翅音の微笑みに、修兵の心は複雑だった。
一体何が幸せなのか。
一体何が 翅音にそんな笑顔をさせているのか。
それが一番重要なトコロだ。
この清々しい気候か。
…自分がいるから、か。
期待はするものの、確信は持てない。
翅音に目をやると、一枚の紅葉葉が舞い落ちてきた。
ふわりと 翅音の髪に彩を添えた。

「…こんなのも、秋って感じですね。
 何か、いいなあ…。」

翅音の唇と同じ、燃えるような紅。
よく似合っていて、修兵は胸が熱くなるのを感じた。
愛おしい。
思わず抱きしめようと手が伸びる。
翅音に触れる前にどうにか思いとどまる。
伸ばした手で、 翅音の髪に燃える紅葉を拾い上げた。

「すげえ、真っ赤だぜ?
 まだ全部紅葉してねーのに。」

「うわ、ホントだ。
 …こういうのも、幸せ感じません?」

翅音が隣にいることが。
微笑んでいることが。
俺には、幸せなんだがな…。
想いは込み上げるが、伝えることなくあいまいに、ああ、などと相槌を打つ。
心なしか、 翅音の顔が赤い。
何かを言おうと 翅音が口を開きかけたその時、声がかかった。

「おーい、 風花!」

「んー?…ごめんなさい、行きますね。」

「ああ。」

引き止める手段など、思いつきもしない。
修兵は寂しく思いながらも、立ち上がる 翅音を見守っていた。
歩みだそうとした 翅音が、振り向いた。
手を差し出す。

「一緒に、行きませんか?」

「…副隊長様がいない方が、いいんじゃないのか?」

「副隊長様は副隊長様でも、檜佐木副隊長様ですから。
 みんな、気安くてスキだって言ってますよ?」

翅音の口から出た「スキ」の言葉に、胸が高鳴った。
もう一度聞きたくて、聞こえなかった振りをする。

「…何だって?」

「みんな、檜佐木副隊長がスキなんですよ。」

顔が緩むのを止められない。
はにかんだような笑顔になる。
翅音の手を取り、修兵は立ち上がった。

「そこまで言われちゃな。
 行ってやるかぁ。」

「うわあ、『副隊長様』だー。」

二人は笑いあった。

俺、今、すっげぇ幸せかも。
付き合ってるわけじゃねぇけど。
こんなのも、何かいいかも、な。









<あとがき>
何だ、コレー!
書いていて、とても恥ずかしかったです。
甘いの書きたかったのに…どこでどう間違えたのでしょう?
でも、楽しかったです。
読んでくださって、ありがとうございました。

2005.10.27



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