突然降り出した雨が、無情にも地面を叩きつけている。
灰色の空を恨めしそうに見上げ、 翅音は悩んでいた。

「どうしようかなぁ・・・傘ないし。
 でも、止みそうにないし・・・。」

走るにしても、この降りではちょっと大変だ。
ぶつぶつ言っていると、声が掛けられた。

「なんだ 翅音、まだいたのか。」

「あ、日番谷隊長。
 ちょっと書類が・・・って、私のこと、ご存知なんですか!?」

「自分の隊の隊員くらい、覚えてる。」

当然、という顔で冬獅郎は言う。
しかし自隊の隊員といっても、 翅音は何十人といる平隊員。
席官ですらないのに、覚えていてくれた。
そのことに 翅音は感動を覚える。
尊敬の眼差しで冬獅郎を見つめる。
翅音の視線にさすがに照れて、冬獅郎は視線を泳がせた。
そして 翅音が傘を手にしていないことに気付く。

「ああ、傘がねぇから帰れねぇのか。
 じゃあ俺が入れてってやるよ。」

「心配せんでもええよ!
 ボクが入れてってあげるvv」

冬獅郎が言い終わると同時に、背後から声が聞こえた。
振り返るまもなく抱きしめられる。

「い、市丸隊長!?」

「市丸、テメェ人の部下にセクハラしてんじゃねぇぞ!」

明らかにむっとした表情で冬獅郎はギンを引き剥がす。
ギンはつまらなそうな顔をしながらも、 翅音を覗き込む。

「な、ボクと帰ろ?」

「もうすぐ迎えが来る。私が送ろう。」

ギンと 翅音の間に割って入るように声が降ってきた。
冬獅郎の顔が今の空以上に曇る。
気にも留めずに白哉は続ける。

「残業で疲れただろう。
 少し、私の家で休んでいくと良い。」

「6番隊長さん、それは軟禁とちゃうん?」

「・・・意味がわかって言っているのか?」

「6番隊長さんこそ、自分の言うた意味、わかってる?」

二人の霊圧が徐々に上がっていく。
同じ様に 翅音の顔は青ざめていく。
そして冬獅郎の苛立ちは増していく。
掛けられた声が、その空気を分断させた。

「これくれぇの雨、俺が走って連れてってやるよ。」

「今度は拉致なん!?」

翅音に風邪を引かせるつもりか!」

割って入った剣八に、ギンと白哉が食いかかる。
剣八は顔色も変えずに 翅音を見る。

「そんな程度で倒れるほど、ヤワじゃねぇよなぁ?」

「この雨なら熱を出すことも十分ありうるだろう。」

「せやから傘持っとるボクが送る、言うてるやんか!」

「いや、私の迎えが・・・」

三人が言い争いを始める。
苛立ちが頂点に達した冬獅郎は、三人には目もくれず 翅音の手を引く。

「おい 翅音、あいつらはほっといて行くぞ。」

「え?あ、はい・・・いいんですか?」

「俺が先に誘ったんだろうが。
 ・・・それとも、俺とじゃいやなのか?」

「とんでもない、光栄です!
 それではお言葉に甘えて、お願いします。」

冬獅郎は傘を差し、優しい顔で 翅音を促す。
冬獅郎と、それから三人に頭を下げ、 翅音は傘の中に入る。
二人の姿がすでに見えなくなりそうになった頃、三人は 翅音の姿が無いことに気がついた。
時すでに遅し、なす術もなく三人は顔を見合わせた。





雨音を聞きながら、二人並んで歩く。
翅音に視線を向けると、ぎこちない笑顔が返ってきた。

「・・・どうかしたか?」

「あ、いえ、別に何も・・・っくしゅん!」

冬獅郎は羽織を脱ぎ、 翅音にかける。
少し触れた指先から、 翅音の体の震えが伝わった。

「無いよりはマシだろ。着てろよ。」

「え、でもこれって大事な羽織じゃないですか!」

「お前、震えてるじゃねえか。
 一緒にいるのに風邪引かせてるようじゃ、この羽織を着る資格もねえだろ。」

「・・・ありがとうございます。」

翅音は嬉しそうに羽織に包まる。
ちょっと悩むような顔をした後、口を開いた。

「確かに寒いんですけど、震えてるのはそのせいじゃないですよ。
 ・・・隊長と一緒だから、緊張しちゃって。」

冬獅郎は 翅音の言葉を反芻する。
隊長というのは職位を指しているのか、自分を指しているのか。
それによって全く捉え方が違ってくる。
隊長という肩書きに緊張しているのか。
日番谷隊長といることに緊張しているのか。
翅音の顔からはその意味していることを図りかねる。

「・・・あれ、寒いですか?」

「あん?・・・いや、別に俺は寒くねぇよ?」

「少し、震えているように見えたから・・・。
 あの、寒ければお返ししますから、おっしゃってくださいね。」

「ん、あ、ああ。」

突然現実の世界に引き戻された冬獅郎は、生返事を返す。
そして、 翅音の言葉で、自分が微かに震えていることに気付いた。

「俺、震えてるのか。
 ・・・一緒にいるだけで緊張してるなんてな。」

呟き、自嘲的な笑みを浮かべる。
自然と 翅音を見つめる。
視線に気付いた 翅音から、笑顔が返ってくる。
胸が、締め付けられる。
冬獅郎の視線が恥ずかしくて耐えられなくなった 翅音は、口を開いた。

「でも、隊長は本当にすごいですね。平隊員の名前まで覚えているなんて!
 私なんて、そんなに話すらしていないのに・・・」

「ま、自分とこの隊員だけだがな。
 ・・・でも、お前の名前はずっと前から知ってた。」

「院生時代に稽古をつけてくださった時のこと、覚えてらっしゃるんですか!?」

「まあな。あの時、諦めずに何度も向かってくるお前を見込んで、10番隊に呼んだんだ。
 それは本当だ・・・けど、お前を見ていたかったのかもな。
 傍にいたかったんだ。・・・お前が、好きだから。」

二人の間に、雨音が響く。
翅音が歩みを止める。
一歩先で、冬獅郎も歩みを止めた。
振り向いた先には、 翅音の嬉しそうな笑顔。

「嬉しいです。同じ隊に入れただけでも嬉しかったのに・・・。
 そんなに前から、見ていてくださっていたなんて。
 ・・・同じ想いで、いてくださったなんて。」

胸がいっぱいになり、冬獅郎は 翅音を抱きしめる。
今までの想いをぶつけるように、強く、でも優しく。
体の震えは、もう治まっていた。
ぬくもりが二人を包む。

「・・・あったかい。」

「はじめから、こうすりゃよかったな。」

二人は笑いあう。
そして話をしながら歩き出す。
今までの分を取り戻すかのように。

二人に、もう雨音は届かなかった。





<あとがき>
キリリクの逆ハー日番谷落ち、甘々の部下設定でギンをからませて、です。
・・・どこが甘いのかしら?
はじめの方なんてギャグになってますよね。
全然ご希望に添えていませんね。
本当にごめんなさい。
少しでもお気に召したら、幸いですvv

2005.7.11


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