俺が、お前の側にいたい理由
〜Reason〜
「第一班、前へ」
「はい」
「破道演習、始め」
「はい」
教官の指示に従い、第一班が前へ出た。
それぞれ構え、言霊を紡ぎ始める。
「君臨者よ!血肉の仮面・万象・羽ばたき・ヒトの名を冠す者よ!焦熱と争乱、海隔て逆巻き南へと歩を進めよ!破道の三十一、赤火砲(しゃっかほう)!」
ドオォーーーーー…ン……
幾つもの鬼道が的を目掛けて着弾し、爆風と土煙を起こす。
視界が晴れてみれば、壊れた的は一つだけだった。
「当てられたのは日番谷だけか……。よし、次。第二班」
「はい」
号令で班が入れ替わる。
「やっぱり日番谷君って凄いね〜」
そんな、はしゃいでいるような声も聞こえて。
日番谷はただ、『馬鹿馬鹿しい』とだけ思う。
「破道の三十一……」
ふいに、背後から異様に高い霊圧と、言霊の詠唱を無視した声が聞こえた。
思わず振り返った日番谷の目に映ったのは、自分と然程変わらない背丈の少女。
何故かは解らないけれど、不味いと直感した。
「赤火砲!」
けれど、制止する間もなくその少女は鬼道を放った。
言霊の詠唱破棄にも関わらず、他の生徒や、日番谷が打ったものとさえ桁違いの威力で。
的に命中したのが見えた途端、物凄い爆風が襲って来た。
「ちっ……」
「あっ……!?」
日番谷は咄嗟に目の前の少女の手を引いて腕の中に収め、爆風に背を向けて庇う。
「きゃぁあああっ!?」
「うわぁああぁあっ!?」
悲鳴と共に、吹き飛ばされた生徒達が床に叩きつけられた。
教官も自分が飛ばされないようにするのに必死のようで。
風が収まった時、立っていたのは三人だけだった。
教官と、日番谷。
それと鬼道を放った腕の中の少女。
「うぅ……」
「大丈夫か!?」
聞こえてきた低い呻き声で我に返った教官が生徒達に駆け寄る。
幸いにも、全員掠り傷程度だった。
「!」
「あ……。す、すみません……」
、と呼ばれた腕の中の少女は、小さい身体を更に小さくして謝る。
「兎に角、ここは使えないから移動するぞ。は後片付けと新しい的の設置だ」
「はい……」
「日番谷、お前も手伝ってやれ」
「何で俺が」
日番谷は少女を放し、教官に抗議した。
自分は何もしていないのに、何故手伝わされるのか納得がいかなかったけれど。
「お前は特に練習しなくても良さそうだからな」
そんな無責任な一言で終わらされた。
「ちっ……」
「この時間が終わるまでに出来ていればいいから、急ぐ必要はないからな。何かあったら呼べ。それじゃあ、頼んだぞ」
あからさまに嫌そうに舌打ちをした日番谷にそれだけ言うと、教官は他の生徒を引き連れて他の演習場に移動してしまった。
残されたのは二人だけ。
「あ、あの……」
「ああ?」
「っ……」
機嫌の悪さを剥き出しに返事をした日番谷に、少女は怯えた様子を見せたけれど。
「わ、私一人でやりますから。他の人達と演習を続けて下さい」
「………」
何も言わない日番谷を、恐る恐る見詰める。
自分がやったのではないのに、と一旦は不機嫌になったものの。
とてやりたくてやったのではないのは分かるから。
「はぁ……」
ため息を一つ吐いて、諦める事にした。
「いい、手伝ってやるよ」
「で、でも……」
「お前一人じゃ終わらないだろ」
反論出来ないのか、は少し俯いただけで何も言い返さなかった。
「ほら、さっさとやっちまうぞ」
「ありがとう、日番谷くん……」
礼を言って微笑んだの笑顔が眩しくて。
日番谷は目を逸らした。
「礼はいいから、霊力の制御をちゃんと覚えろ」
「……どうやるの?」
「お前なぁ……」
小首を傾げて訪ねるに、日番谷は脱力した。
「仕方ねぇ、教えてやるから授業の後にでも修練するぞ」
「……いいの?」
「また片付けやらされるよりはいい」
「ご、ごめんなさい……」
「そう思うなら頑張れ」
「うん……」
人に対して、ちょっと怯えたような態度を取る事。
霊力が高いのに、それを上手く制御出来ない事。
笑った顔が、やけに眩しかった事。
どれが理由なのか、すべてが理由なのかは分からないけれど。
ただ何となく。
もう少し、の側にいたいと思った。
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