たった一つの勘違い
それだけで、人はこんなにも擦れ違ってしまう……




〜Misunderstanding but I miss you〜




「あ、修……っ!?」


恋人である檜佐木を見付け、駆け寄ろうとしたはその場で立ち止まってしまう。
何故なら、彼の横には知らない女性死神がいたから。

仲睦まじそうに話すその様子はまるで恋人同士のようで。
見るに堪えなかった。

は泣き出しそうになるのを堪え、その場から走り去った。


「では、檜佐木副隊長。ちゃんと彼女にあげて下さいね?」
「分かってる。わざわざ現世から持ってきてもらって悪かったな」
「いえ。お二人の仲を見ているだけで周囲も幸せな気持ちになれますから」


そう、檜佐木は現世へ赴いた隊員にへの贈り物を頼んでいただけだった。
けれどにはその事を内密にしてあったから。
だから、は誤解してしまった。





「ふっ……、ふえぇ……」


声を押し殺し、所属する六番隊の隊舎裏で泣いている
まさか、先程の女性死神は修兵が自分のために贈り物を頼んだ相手だとは思いも寄らないから。

裏切られたのだと、そう思った。

一人蹲って泣いていると、ふいに声を掛けられた。


?どうしたんだ、お前……」
「あ、阿散井副隊長……」
「何で泣いてるんだ?どこか怪我でもしたか!?」


掛けられる優しい言葉に、は声を上げて泣き出した。


「修が、修が……」
「檜佐木さんがどうした!?」
「べ、別の女の人と一緒にいたんです……。すごく親しげにしてて、私、声も掛けられなかった……」


幼子のように泣き出したを、恋次はそっとあやすように抱き締めた。
恐らくは何かの勘違いだろう、と言い含めながら。

はショックのあまり、周囲が見えていなかった。
恋次はの事を心配するあまり、気が付かなかった。

抱き合った二人の間近で揺らいだ、霊圧に……。





それから一月もの間、は毎日のように訪ねていた檜佐木の部屋へ行かなかった。
檜佐木は、何も言ってこなかった。

もう、自分達は終わりなのだと、そうは思う。

世界の終わりのような顔をして廊下を歩いていると、ぼんやりしていたせいか、誰かにぶつかってしまった。


「あ、すみませ……、修!?」
……」


檜佐木は何とも言えない表情でを見ていた。
はそれを別れ話をどう切り出そうか迷っているのだと捉えた。

どうせ別れを切り出されるなら、この感情をすべてぶつけてしまえ。

そう思い付くと、は捲くし立てるように口を開いた。


「あの女の人とは上手くいってる?私より綺麗で、修の好みの人だったもんね、そりゃ上手くいくよね。私なんてもう要らないんでしょう!?」
「何の事だ?」
「惚けないでよ!私、見たんだから!!」
「お前こそ、阿散井と浮気してるだろう?だから一月も逢いに来なかったんだろう!?」
「そんな事してないよ!浮気してるのは修の方でしょう!?」


二人とも、初めて本気で喧嘩をした。
収拾が付かなくなるかと思いきや、当の女性死神が通りかかった。


「ほら、この人でしょう?修が好きなのは!」
「は?お前何言ってんだ?」
「前、仲良さそうに一緒にいるのを見たんだから!」


キレたはそう言ったけれど。
当の女性死神は困ったように口を開いた。


「あの……、私、既婚者なんですけど?」
「え……?」
「それに、檜佐木副隊長と二人でお話したのは、現世から貴方への贈り物を取り寄せるように頼まれた時くらいですが……」
「え?えぇ!?」
「……分かったか?」


檜佐木は疲れたようにそう言った。
は初めて自分の勘違いなのだと気が付いた。


「ご、ごめんなさい!」


二人に向かっては頭を下げる。
女性死神は『気にしないで下さい』とだけ言って、仕事へ戻って行った。

残された二人の間には、気まずい空気が漂う。


「で、お前の方はどうなんだ?阿散井に抱き締められてただろう?」
「それっていつの事?」
「さっきのヤツと話してた後」
「あー、それ、私が隊舎裏で泣いちゃってたからだ……」
「マジかよ……」


お互いにただの勘違いだと分かり、二人は脱力した。
その後、顔を見合わせて苦笑した。


「修に逢えなかった一月、損した気分」
「俺も、悩んでた時間を返して欲しいぜ」
「今日はお邪魔しても大丈夫?」
「あぁ」
「じゃあ、一月ぶりにゆっくりお話しよう!」
「いいぜ?」


その夜、二人は以前のように笑い合い。
楽しい一晩を過ごした。

……翌日は二人揃って遅刻したけれど。









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